京都の老舗帯匠「誉田屋源兵衛」が長年培ってきた280年余りの技と伝統が、われわれのアロハシャツに新たな命を吹き込んでいる。着物の高級着尺地として使われてきた誉田屋の織物や染色技法が、現代的なアロハシャツのデザインに生まれ変わった。伝統とファッションが出会うことで、まったく新しい物語が紡がれようとしている。
この、誉田屋源兵衛の伝統に現代のスタイルを合わせた、コレクションの世界観をぜひご覧ください。
伝統と革新を体現する帯匠の軌跡
山口源兵衛氏は1948年、京都の伝統ある町・室町に生まれました。幼少期から祖父の系譜を継ぐ帯匠の家系に育ち、1979年に10代目・誉田屋源兵衛を襲名します。以降、斬新な発想と卓越した技術で、革新と伝統の融合を体現する数々の作品を生み出してきました。
1985年には原始布を素材とした個展を開催。これを機に、東南アジアの野蚕糸を使った新たな帯作りにも着手し、独自の作風を確立していきます。さらに2002年、皇居内の養蚕所でのみ飼育される貴重な「小石丸」繭を使った着物を制作。東京・赤坂の草月会館で「かぐや、この繭。『小石丸』展」を開催し、日経優秀賞を受賞するなど、高い評価を得ています。
2003年には日本文化デザイン大賞も受賞。2006年にはデザイナーのコシノヒロコ氏、建築家の隈研吾氏とのコラボレーション「襲ー墨象色象展」を東京・大丸ミュージアムで開催するなど、多方面のクリエイターとの協働にも力を入れてきました。
2008年にはユナイテッドアローズと男性用着物のコレクションを制作し、東京コレクションで「傾奇者達之系譜」を発表。2009年には映画「ほかいびと」の衣装として「平成の糞掃衣(ふんぞうえ)」を手がけるなど、映画の世界にも足を踏み入れています。
2012年のNHKにて、お笑い芸人・俳優・画家・映画監督など幅広い表現活動を続けるビートたけし氏が、アートの新しい楽しみ方を提案するBSプレミアムの1時間番組「たけしのアート☆ビート、帯に魂を吹き込む男」への出演を皮切りに、2014年には画家・松井冬子氏の作品を帯に表現した作品を発表するなど、メディアを通じて広く活動の場を広げてきた山口源兵衛氏。伝統を守りながらも、新しい可能性を切り拓き続ける、孤高の帯匠です。
繊細な技が宿す、一糸一繍の"誇り"
「やはり、人ですね。職人の手仕事の技です」と語る源兵衛氏。日本には長らく手仕事の伝統が根付いてきた理由として、産業革命の遅れがあったことを挙げます。「西陣にジャカードが入ってきた頃、職人たちは『機械ではなく、一越ずつ魂を込めるものだ』と抵抗しました。だから日本の手仕事が残ったのです」 そうした職人気質から生まれる、一糸一繍に賭ける"誇り"がなせる技と言えるでしょう。素材、織り、意匠、色、そのひとつひとつから静かに、しかし豊かに「誉田屋」であることを主張するような気概が滲み出るのが、誉田屋源兵衛の大きな魅力なのです。
285年を越え、新たな物語へ
かつて着物の着尺地として使われてきた高級な織物や染色技法が、今、アロハシャツの生地に命を吹き込まれています。源兵衛氏は「人が締められない帯をつくりたい」と語る通り、作品に何かを宿らせることを目指しているのです。 SHORT SLEEVE SHIRTの生地一反一反に、285年の技と心が紡がれています。着る人となれば、そこに宿る新たな物語の一部となり、伝統と現代の調和を体現する華やかな体験ができるはずです。